第0話6
「はじまりの、瞳の扉のその向こう側」




 その後も、ダカート号とヤズムの付き合いは続いた。

    バーーーーーン!!



「ヤッさん! ヤッさん! こっちでトランプしよーーーー!!!」
 休憩中のビリーが仮眠でも取ればいいのに、ハイテンションで扉を開けてヤズムを誘う。
 今日も外は大しけ。食堂では、仕事の無い者が集まり、トランプで時間をつぶしていた。
 少し声をかけてからビリーは扉を閉めた。
「断られたよ!! 忙しいって!」
 ハハハッと、ビリーが笑う。
 トランプを切っていたランバートが「やっぱり」という表情で机にカードを並べ始める。
「彼は難しい人ですね。最初に会ったときには感じませんでしたが、どんどん深刻で
 暗い表情になっていく」
「オレらでなんとかしてやれればいいが……」
 グーリーとダイクが顔を見合わせる。
 あれ以来、ヤズムがダカート号に来ることはなかったが、ダカート号のクルーがヤズムの
様子を窺うために扉を覗くことは、よくあった。
 この場所が食堂ということもあって、ベルは毎日のようにヤズムに料理を届けていた。
しかし、あまり食べてはくれない。ヤズムは何度も断ったが、1人分作るのが増えることぐらい
大したことないと言うベルに負けて、渋々料理をもらっていた。
「ベルはいるかー? ヤッさんのところか?」
 と、食堂に現れたのはカーティスだった。みんながいっせいにカーティスを振り返る。
「カーティス、次の港にはいつ頃つく予定なんだ?」
「3日後を予定しているが、これだけ天気が荒れてたら、わかったもんじゃない」
「食糧が尽きそうだから、小さな港でもいいから一番近いところに寄って欲しいんだナ」
「モンスターにやられたところの修理もしないといけないしな」
 呪いの力は思ったよりも深刻だった。あまり悩まないのが長所のダカート号のクルーも、
日々ストレスが溜まっていっているようだ。
「で、ベルはいないのか?」
「私ならいるよ。どうしたんだい?」
 ベルが厨房から顔を出した。夕飯の支度中だったらしい。いいにおいが食堂に流れ込んでくる。
 カーティスは、ヤズムのところへ通じる扉が閉ざされているのを確認するとベルに外に出るように
促した。
「船長が呼んでる。料理の途中ですまないが、すぐに来てくれないか?」
 そう言われ、ベルは嫌な予感を覚えながらも、うなづいた。



「船長、ベルを連れてきました。中に入ります」
 ノックもせずに、カーティスとベルは船長室に駆け込むように入った。外は大雨。雨がっぱを着て、
歌いながら(そして酒を飲みながら)舵を握るエドガーはなかなか強い。
 2人は濡れた服を気にしながらドノバンの机に近づいた。
「おぉ、ベル。呼び出してすまなかったな」
 ベルは、ドノバンに言われる前に切り出した。
「この船が不幸続きなのは知ってる。この先、もっと危険なことになるかもしれない! でもッ!
 でも、お願いだから、指輪を捨てるなんて言わないでおくれ!」
「……ベル、まぁ落ち着け」
「そう言う話をするわけじゃない」
 カーティスに言われ、ベルは黙った。
「じゃあ、どういう話を私にするっていうんだい?」


「ヤッさんを、このダカート号の仲間にしようと思う!!」


 超真面目な顔のドノバンの言葉に、ベルとカーティスは固まった。
 
 ヤッさんを仲間に……!?


「あの、船長……。私は、その話は初耳ですが。まぁ、彼は強そうですし、仲間になって
 くれれば心強いと思いますけど。私は次の新月を調べるように言われただけで、そういう話は
 みんなを集めてするのがいいと思いますが……」
 カーティスが持っていた分厚い本を机に置く。天文学のその本は、専門用語が並べられ
いかにも難しそうな本だった。
「カーティスに新月の日にちを調べさせたんだ。次の新月に、またヤッさんに宴とか理由をつけて、
 こっちに誘い込んで、勧誘しよう! 新月ならこっちに来れるだろうしな」
 そう言うドノバンと、困惑顔のベルが本を覗き込む。
「で、次の新月はいつなんだい?」
「新月は、まだ先だ。……その前に、明日は満月」
 パラパラとページをめくりながらカーティスは、しおりのはさんだページで指を止めた。
「明日は満月……そして『月食』が起こる」
「月食……?」
 何故だかベルの胸はざわめいた。
「そう。一時的だが、新月と同じような状態になる。その時なら、彼はこちらにに来れるかも
 しれない。勧誘ならその時がよろしいかと」
 そうカーティスが提案する。ドノバンが太ももを叩いて立ち上がった。
「よっし! そうと決まれば、宴会の準備だ。明日は、盛り上がるぞーーーーー!!」

(……明日、きっと何かが起こる)

 喜ぶドノバンの横で、ベルの胸騒ぎは増すばかりだった。

 



    

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