第10話3
「日の国は今日も雨だった」




 め、召使いだと……!?
 
 一気に不穏な空気が流れたが、それを察したエレナが間に入った。
「殿。この者たちは私の召使いなどではありません。一緒に船に乗る家族です。
 私たちは今、船旅をしております」
「う……そうであったか」
 エレナの眼光鋭い真っ直ぐな瞳に殿は少し退いた。
「ありがとうございます、ボス〜」
 エレナに「家族」と、そう言ってもらえて感動したドノバンが涙目でエレナの背中に声を
かける。
 殿は、雨の降る空を見上げるようにダカート号を見上げた。しばらくの沈黙の後、殿は
うなづいた。

「よし。そなたたちを全員、うぐいす城へ招待しよう。 余に、ついて参れ」

「えぇ!?」
「殿、何と!?」
 エレナと鬼面童子が同時に驚きの声を上げた。殿はこちらの返答など聞かずに、カゴに
乗り込み、さっさと行ってしまう。 なんだか自分勝手極まりない。
 ポカーンと口を開け、殿を見送るダカート号クルーと、鬼面童子。
「ねぇねぇ、あのお城に行けるの? やったー!」
 高台にある城を指差し、アイナが無邪気に喜ぶ。それに対し、眉をひそめ困惑気味の
エレナに、ドノバンが声をかけた。
「ボス、いかがしましょう?」
「そうねぇ……お言葉に甘えて行きましょうか。おいしいものを食べさせてくれるかもしれ
 ないし☆」
「お酒もありますか〜!?」
「タダでご飯を食べさせてもらえるなら、行くしかないんだナ!」
 エドガーとダイクが手をたたいて喜ぶ。
「ぶわっくしょん!」
 その時、トードが豪快にくしゃみをし、辺りがシーンとなった。

 トード + 鼻 = なにかが起こる……!

 ビリーが嫌な空気を払うようにトードの背中をたたいた。
「大丈夫大丈夫。ちょうどこの時期(リアル現在4月)は、花粉が飛んでるから、きっと花粉症さ♪」
 まぁそうしておこう、と、全員が前向きに考える。
 鬼面童子は、頭を下げた。
「エレナ殿。 旅の途中なのに殿のワガママにつき合わせてしまい、申し訳ない」
「いいえ、こちらこそ。お城へ招待してもらえるなんてありがたいわ。さてと、それじゃあ、
 誰が船に残る?」
 エレナがみんなを振り返る。さすがに全員で城に行くわけにはいかない。船番が必要だ。
 一歩前に出たのはガストンだった。
「ボス、ワシが留守番しましょう。 アイナ、向こうであまり騒ぐんじゃないぞ」
 それに反発したのはアイナだ。
「えーッ! じいちゃん、いっつも留守番係じゃん! クララの部品を買う時以外は船を降りないし。
 たまには一緒に行こうよ! ねーねー、ねぇ!」

 と、孫にせがまれ、ガストンは顔を赤くした。みんなが笑う。
「それでは、私が船に残りましょう。みんなでお城へ行ってきてください」
 名乗りを上げたのはランバートだった。一同反対はないようで、エレナたちはランバートを残し、
鬼面童子の案内でうぐいす城へと向かった。






うぐいす城 

「へぇ〜、これがうぐいす城。変わった造りね」
 エレナは自分の住んでいたポポロクロイス城を思い出し、呟いた。
「ふー、疲れたわい」
「この階段は心臓に悪いんだナ」
 ガストンとダイクが仲良く城門の前で腰を下ろす。うぐいす城は高台にあるため、エレナたちは
急な階段をずっと登り続けてきたのだ。屈強な海の男もさすがにこの階段はこたえたらしい。
みんなぜいぜいと息をしていた。
 鬼面童子は慣れたもので、全員を振り返りほほ笑んだ。
「それでは、客間に案内しよう」

「その必要はないぞよ、鬼面童子」

「殿!」
 鬼面童子が振り返ると、そこには殿が立っていた。
 ここに来る前にエレナからそれなりの作法について教えてもらっていたドノバンたちも
ちゃんと殿に向き合い姿勢を正した。
 ……が、何か様子がおかしいことに気づく。
 殿が口元にあてていた扇子をパチンと閉じた。その顔に笑顔はなかった。
「……!」
 気付くのが遅かった。──これは罠だ。
 大勢の城の兵士たちが現れ、エレナたちを囲んだ。それぞれに刀や槍を持っている。
 殿が扇子を頭上に上げ、合図を送った。
「エレナ殿以外を全員ひっとらえよ。牢に入れておけ」
「な!」
「どういうことですか、殿!!」
 殿は、エレナのところまで歩くと、ポンッとその肩に手を置いた。


「余は決めたのじゃ☆ エレナ殿を側室にするでおじゃる!」



 そ……側室ーーーーッ!?



 ズカーンと痛恨の一撃をくらった大人組に対し、アイナとモンバは頭に???マークを浮かべて
いる。アイナはガストンの服をひっぱって尋ねた。
「ねぇ、じーちゃん、『側室』ってなにー?」
「え!? まぁ……。 おい、カーティス、お前が説明してやれ!」
「あー……、殿と結婚している奥さんが『正室』。 で、殿が奥さん以外に愛している人を『側室』。
 あとはWikiで勝手に調べろ。  にしても、殿、ボスに対してマジで許さん!!」
「ボスは殿の愛人になるってこと!?」
「ってことは、ボスはどうなるッスか!?」
 アイナとモンバが奇声をあげる。
 召使いと言われ、ボスを側室にと言われ、頭にきたダカート一家が剣を抜く。兵士たちと
対峙し、一触即発状態だ。多勢に無勢と思われるが、ガバスで警備員をボコボコにしたことも
ある、負けない自信がダカート一家にはあった。
「やめて!」
 そう叫んだのは、エレナだった。
「ボス……?」
「ドノバン、ここで騒ぎを起こさないでちょうだい。ポポロクロイスと日の国には友好条約が
 あるの。私たちが事を起こせば、にいさまたちに迷惑がかかる。それだけは絶対に避け
 ないと!」
「でも、ボス。側室ですよ!?」
「私は大丈夫よ。今はおとなしくしていて。後で必ず迎えに行くから!!」
 そうエレナに言われ、ドノバンが短剣を腰にしまった。他のみんなも武器をおろす。
 殿が満足そうに扇子を口元にあて、笑った。
「それでは、エレナ殿はこちらへ。 あと、忍を向かわせ船に残っている者も捕えておくのじゃ」
 殿の後ろをエレナがとぼとぼとついていく。
 そして、ドノバンたちは兵士につかまり、牢へと引っ張られていく。
 

 どうしていいかわからず、鬼面童子はしばらく城の庭に立ち尽くしていた。
「殿……。 まさかエレナ殿を……?」

 雨がやむことはない。

 


    

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