第10話5
「日の国は今日も雨だった」



 日の国の龍のほこらは、竜の血が流れるエレナに関係ない場所とは言えない。そんな場所で
彼女の心に直接語りかけてくる声があった……。



「竜と人の子よ、世界に危機が迫っている。 ポポロクロイスへ戻るのだ……」

「イヤよ なんで戻らなくちゃいけないの?」

 キッパリと、エレナはその声に即答した。まさかそんな答えが返ってくるとは思ってなかったの
だろう、声の主は、戸惑いを隠せない様子だった。
「 え、なんで……って、なんで? 」
 動揺しているのか、なんで?になんで返し。
「私は冒険で忙しいの。ポポロクロイスには、にいさまがいるから、なんとかなるでしょう?
 私はポポロクロイスから出てきたのよ! 戻る気はないわッ」
「エレナ殿……誰と話してるでおじゃるか?」
 なかなか帰ろうとしないエレナに、殿が心配そうに声をかける。エレナは社から殿に視線を向けた。
「すみません、殿。 徹夜で見張り当番だったもので、頭がボーッとしてしまって、ちょっと幻聴が
 聞こえたみたいです。疲れてるんだと思います。城で休憩させていただいてよろしいですか?」
「良い良い。ゆっくり休むといいでおじゃる」
 エレナと殿は笑うと、歩き始めた。
「 ちょ……待て! 幻聴ではない! ポポロクロイスに戻るのだ! 」
 声の主が声を張り上げる。最初は重々しい雰囲気で語りかけてきていたが、可哀そうだが、
今はもう台無しだ。エレナに対して(これだから最近の若者(竜)は……!)トカ思っているに
違いない。
 エレナは立ち止った。
 そして、もう一度、社を振り返った。
        
「そうね、ポポロクロイスに引き返してもいいわよ。
  
あなたがこの国の雨を止めてくれるなら、戻ってもいいわ」

「 ……ッ 」
 声の主は押し黙った。
 そして、待ってもそれ以上何も言葉は聞こえてこなかったので、エレナは龍のほこらを後にし、
うぐいす城へと向かった。







 一方その頃……
 
 こちらはダカート号で留守番をしているランバート。
 エンジンも停止しているため、ダカート号は静かだった。
 自室で医書を読んでいたランバートは、パタンと本を閉じた。
「日の国の薬草は独特なもので、なかなか良さそうですね。ボスたちが帰ってきたら、ちょっと
 買い物に行くことにしましょうか」
 きっと、今頃、みんなはお城で殿の大歓迎を受けて飲めや歌えやの大宴会でお腹いっぱい御馳走に
なっているのだろうなと思い、ランバートは1人笑った。
 そんなことを考えてるランバートは、城で何が起こっているか知るわけなかった。
 エレナは殿に日の国に残れと迫られ、ドノバンたちは牢屋の中だ。宴会でお腹いっぱいとは程遠い。
 その時だ。
 カタッ
 物音がして、ランバートはふと天井を見上げた。神経を集中し、耳をすませる。ネズミが走っただけかも
しれない。伝声管からは、何も聞こえてはこなかった。
「……船の見回りに行きますか」
 ランバートは立ち上がり、医務室を後にした。

 船倉と大砲回廊を一通り見回ったランバートは、甲板に上がってきた。
 到着した頃は小雨だった雨は、本降りになっていた。音を立てて雨が降り、甲板には水たまりが
できていた。船倉からシートを持ってきたほうがいいなと考える。
「と、その前に……」
 ランバートは怖い顔でその先を睨んだ。
 何人もの黒ずくめの男たちがそこに立っていた。
「すみません、関係者以外立ち入り禁止です。見学もお断りしてますので、出て行ってもらえ
 ませんか?」
 その表情とは裏腹に、ランバートは穏やかな声で、男たちに言う。しかし、一向に帰る気は
ないらしい。緊迫した雰囲気がただよう。
 やれやれ、とランバートは首を振った。
「自己紹介をしてもらいましょうか。私はランバート。この船で医療を任されている者です。
 そちらは?」
 真ん中の男が一歩前に出た。
   「俺は忍一族頭領のムサシだ。 殿のご命令で、お前を捕えに来た。
      おとなしく捕まれば、それでよし。  抵抗するならお前の命の保証はない」

ああああああああああああああああああ

「なるほど。 出てってもらえますか? 
    こちらこそ、あなたたちの命の保証はしませんよ?」


 ランバートが不敵な笑みをこぼす。
 ムサシがスッと手を上げた。
「……やれ」
 後ろに控えていた忍びたちが一斉にランバートに襲いかかった。



 



    

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送