第10話6
「日の国は今日も雨だった」



 さらに、一方その頃……うぐいす城牢屋では。


うるうるきゅーん


 暇そうに大あくびをした牢の見張り番は、めんどくさそうに振り返った。
「いや〜、子供とおばさんに懇願されても出せないし……」
 見張り番にサラリと言われ、激怒したのはベルとガストンだ。鉄格子を掴んで怒鳴る。
「コラーーー、誰がオバサンだって、えぇ!! まだお姉さんだよッ!」
「コラーーー、うちの孫娘がかわいくお願いしてるのに、なんだその態度はーー!」

「おやっさん、怒るところがちょっとズレてます」
 まぁまぁとビリーがガストンをなだめ、座らせる。牢屋にまとめて11人押し込められて、ぎゅうぎゅう
詰めだ。高いところに小さな窓があり、そこから見えるのは、相変わらず降り続けている雨だった。
 エドガーが、隅の湿気ったところにキノコが生えているのを発見!
「これはお酒のおつまみにいいかもしれませんねぇ〜」
 と、キノコを採ろうとするその手をベルが叩いた。
 トードとダイクは大人しく隅っこで体操座りして待機中。ずっとくすぶっていたトードの鼻はだいぶ
落ち着いたようだった。
「はぁ……」
 モンバが大きなため息をついてその場に座り込んだ。
「オイラ、クロコネシアではイタズラばっかしてたけど、怒られてせいぜい入れられるのは物置ぐらいで
 牢屋なんて入ったことは一度もなかったッス」
 ドノバンが元気のないモンバの頭を小突く。
「そりゃあいい経験になったな」
「船長、どうしましょう?」
 大きな体を小さくしているグーリーに聞かれ、ドノバンは腕を組んだ。
「そうだなぁ……ボスには待ってろって言われたが。どうしたものか」
 と、その時、牢の外から足音が近づいてきた。見張り番が姿勢を正し、深々と頭を下げた。
「これは、鬼面童子殿。いかがなされた?」
 現れたのは鬼面童子だった。両手には、没収されたみんなの荷物を持っている。手近なところに
それを置き、鬼面童子は見張り番に向き直った。
「殿より、この者たちを解放して良いと許可が降りたので、牢屋を開けて欲しいでござる」
「うそでしょ? だって、鍵は殿しか持ってないから開けられないし」

   即効で嘘バレた!

「ご免」
 そう言うと、鬼面童子は見張り番に右アッパーをくらわせた!!

 ドカッ

 にぶい音がして、次にはもう見張り番はその場に倒れていた。
 びっくりしたのは、ドノバンたちである。
「いや、真面目な人かと思いきや、結構やるんだな、あんた」
「拙者も昔は真面目人間だったが、まぁ、人生、いろいろあってな。……と、そんなことより、
 エレナ殿にそなたらを逃がすように頼まれたでござる。しかし、鍵は殿しか持っていないと
 なると……。そろそろ龍の祠から戻ってくる頃、殿のところに行ってくるでござる!」
 もしかすると、殿に右アッパーをくらわせるかもしれない勢いの鬼面童子ににドノバンが声を
かける。
「待った待った、こっちは大丈夫だ」
 そう言い、ドノバンは鬼面童子を呼び止めた。ドノバンはカーティスを呼んだ。
「よし、頼む」
「どれどれ」
 重い腰をあげ、カーティスはポケットから針金を取り出すと南京錠の鍵穴に入れた。みんなの
見守る中、1分もかからずにカチッと音をたて、鍵が外れる。
「「カーティス、すごーい! それやり方教えてー」ッス」

「お前らに教えたら、犯罪に走るから、絶対ヤだね」
 そう言いながら、カーティスは扉を開けた。
「お待たせしました、船長。どうぞ」
 ドノバンを先頭に、みんなは牢屋の外に出た。その替わりに、気絶している見張り番を牢に入れて
鍵をかけると、ドノバンたちは鬼面童子から手荷物を受け取った。
「よし、じゃあ。脱出だ」
 そう言われたが、鬼面童子はうつむいた。
「拙者には殿の考えがわかったでござる。殿は、エレナ殿をこの国を守る龍にするつもりでござる!」
「なんだって!?」
 鬼面童子に言われ、全員が驚きの声を上げた。
「この国は水龍の加護を失って以来、荒れていく一方。拙者、代わりとなる龍を探す旅に出ていたの
 だが、結局見つからず、年月だけが経って行ったでござる。殿は竜族の血の流れるエレナ殿をこの
 地に引き止めるつもりだ」
 全員が顔を見合わせる。
 ボスのことは十分わかっているはずだ。彼女は、困っている人を見ると放っておけないところがある。
この国の人が困っているならば、残ると言いだすかもしれない。
「そんなのヤだよ!」
 そう叫んだのはアイナだった。
「あたい、ボスみたいなかっこいい女の船乗りになるのが夢なのに! ボスが船を降りるなんて
 絶対にヤだよ!」
「オイラもッス! ボスのいないダカート号なんて嫌ッス!」
 モンバも続けて訴える。
 子供の願いかもしれないが、それは、大人だってそうだった。
「俺らだって、そうさ。 もう、ボスのいないダカート号なんてあり得ないからな」
 ドノバンがうなづいた。
「よし! ボスを迎えに行くぞ」
「アイアイサー!」
 ドノバンの声に、全員が元気よく答えた。






 龍の祠から帰ってきたエレナは、天守閣の部屋に通されていた。
 そこから城下が一望できる。しかし、雨でかすんでみえるのが残念だった。
「お茶とお菓子を持ってこさせるので、ゆっくりするでおじゃるよ〜。後でカラクリで一緒に
 遊ぶでおじゃる」
 殿にそう言われるものの、エレナは畳の上で正座をして、そわそわしていた。どうにもこうにも
落ち着かない。
「あ、あの、殿!」
 くつろいでいた殿が「ん?」とエレナを振り返る。
 エレナはバッと立ち上がった。
「ご、ごめんなさい、殿!」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
 殿の叫び声が、うぐいす城に響き渡った。


 



    

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