第1話4
「その船の名は、ダカート号ッ!!」
バンッ!!
カーティスは、思いっきりドノバンの机をたたいた。
ここは、後部デッキにある日当たり良好のダカート号の中でも一番良い部屋。
船長のドノバンの部屋なのだが、これからエレナに明け渡す予定になっている。
そんな部屋で、ドノバンとカーティスはにらみ合っていた。
「海賊やめるってどういうことですかッ!?」
「どうもこうも、こういうことだ!」
「説明になってません」
「命の恩人のために、海賊から足を洗うと決めたんだ。ちょうどいい時期なんだろう。
他のクルー8人全員了解済みだ。あとはお前だけ……」
「私は認めません」
「なんでだよ」
「この不景気な世の中で、海賊から足を洗って堅気に転職して、やってけると
思ってるんですか? そりゃ、かわいい女の子の冒険のお手伝いには賛成ですが、
海賊やめるってのは……」
そう。
いきなりのことに、彼は戸惑っていた。
……その先のことを考えられない。
ややあって、ドノバンが口を開いた。
「だったらお前……この船を降りろ」
「な……ッ!!!」
そのドノバンの言葉に、カーティスは驚いた。
「海賊続けたいっていうのなら、俺の海賊仲間をいくらでも紹介してやろう」
「ほ……本気で言ってるんですか?」
「もちろんお前にはこの船に残ってほしい。だが、意見が違えば、お互い
違う道を歩いたほうがいいだろう」
カーティスはキリキリする胃を押さえた。
「一晩考えさせてください。……返事は、明日しますので」
そういうと、彼はくるりと踵をかえして、船長室を後にした。
「まったく、なんであんなに素早く気持ちの切り替えができるんだ、船長は!」
その適応力が、実に、うらやましい。
カーティスは甲板で足を止めた。
マストに登ってビリーがロープを集めている。その下では、トードが予備用の帆を
広げてチェックをしているところだった。
不思議に思って、カーティスはビリーに声をかけた。
「なにをしてるんだ?」
「あぁ。船長の命令で、海賊旗と帆をおろしてるんだ」
「そうか」
なるほど、と、カーティスはうなづいた。
「で、カーティスはもう聞いた? 船長も海賊やめるなんて、思い切ったことするよな」
「お前らは賛成なのか?」
「え? まー、賛成も何も、オレもトードも船長に拾ってもらった身。船長についていくまでさ」
「……カーティスは、海賊やめるの反対?」
そう切り出したのは、無口に作業をしていたトードだった。
ビリーも場の空気を読んで、作業の手を止める。
「嫌なら船を降りろと船長に言われた」
「「えぇーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」
2人は同時に大声をあげた。
ビリーもトードも、それなりにカーティスを慕っているのだ。
その彼が船を降りるかもしれないという。
「大丈夫ッ!!!」
そうキッパリ言い切ったのは、なんとトードだった。
「何が大丈夫なんだ?」
眉をひそめるカーティスに、トードは自分の鼻を指さした。
「鼻がムズムズしないから……悪いことは、起きない」
「はぁ?」
トードの答えに呆れるカーティス。
ビリーが声をあげて笑った。
「そうそう。ハーピエルに襲われる前なんて、すっごくトードの鼻がおかしかったんだ。
今はもうなんともないし、こいつの鼻はあてになるんだ。大丈夫、何も起こらない。
……明日もきっと、みんな揃って出航できるさ♪」
この2人に根拠はあるのだろーか。
「ま、そうなるといいな」
それだけ言うと、カーティスは、海図室へと戻って行った。
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