第1話5
「その船の名は、ダカート号ッ!!」




 その晩のこと──

 食堂に集まったダカート号のクルーは、エレナを中心に食事をしようとしていた。
 かわいい女の子を中心にして、明るい会話がはずむはずむ。

 ただ、1つだけ、席が空いている。
 
「おい、カーティスはどうした?」
 食事を運んできたベルに、ドノバンは小声で聞いた。
「あぁ、甲板にいる。夕飯はいらないそうだよ」
「……そうか」
 ドノバンはため息をついた。ちと言い過ぎたか、と、今更ながらそう思う。
 ドノバンの考えでは、カーティスは海賊をやめる件について、ふたつ返事でOKを出すと
思っていた。まさか、こんなことになるとは……。
 そんな考えにふけ込むドノバンを気遣って、エレナが声をかけた。
「あの……私、やっぱりこの船に乗るのをお断り……」
 

     バンッ!!

 言いかけて、エレナは言葉を切った。

 

「エレナさん、大丈夫です。海賊はキッパリとやめますんで!」

「でも、それであなたの大切な仲間を失うことになるなら……」
 心配かけまいと、ドノバンは笑った。
「俺はあいつを信じてますんで」
「……信じる、か」
 エレナがドノバンの言葉を口の中で繰り返す。

 そんなエレナの前にドーンッと料理が置かれた。

    

「私は海賊廃業には大賛成だよ。なにより、このダカート号に女は私1人で、あとは
 むっさい男ばっかりだから、女の船乗り大歓迎さ♪」
 ベルがエレナにウインクする。
「ぜひ、この船に乗ってほしい。あんたは『船の女神』だよ」
「やだ、そんな『船の女神』だなんて……」
「ふふ。そうあって欲しいんだ。さ、どんどん食べておくれ。カーティスのことは
 心配ないって!」
 ベルはエレナの前にシチュー皿を置いた。
 温かい湯気の立つシチューにエレナは口をつける。
「……おいしい」
「そうかい、まだまだあるから、ゆっくり食べておくれ」
 そう言い、ベルは別のテーブルに移動していった。
 エレナは久しぶりに、人のぬくもりを感じていた。
 孤独との戦い、水と硬いパンを食していた今朝までの1人旅の辛さに、
思わず胸がつまった。
「ドノバン。あなたは良い船に、そして良い仲間を持っているのね」
 エレナが食堂を見渡し、なにげなく呟く。 
 その言葉にドノバンは照れたように笑った。
「ありがとうございます。全員、自慢のクルーですから」


「ベル〜。酒を追加だ〜〜〜!! タルごといっぱ〜い!!」
 そう言い、立ち上がった男がいた。
 すでにお酒でベロンベロンに酔っぱらっている。
 隣で、ビリーが心配そうに男を座らせようとする。
「おい、エドガー。ちょっと飲みすぎなんじゃ……」
 そんな酔っ払いは、ビリーの腕を振り切った。
 
  

「ベル、タルごと酒をくれぬか。
 どれどれ、わたくしが少しカーティスと話をしてきましょうか。お任せあれ」



「……」
 静まり返る食堂。



((なんていうか……このおっさんに任せるのは非常に不安なのだが……))
 心の中で、全員が同意見だった。











 カーティスは1人、甲板で風にあたっていた。
 たちこめていた霧は、すっかり晴れ、空には満天の星が輝いている。
 波の音と、吹き抜けていく潮風が、なんとも心地よい。
 食堂から聞こえてくるのは賑やかな笑い声。みんな、お嬢さんと仲良くやっている
のだろう。うらやましく思い、こんなところで1人でたそがれてて、自分はバカだなと、
そう思う。

「カーティィィーーーーーーース〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」

「ん?」
 彼は振り返った。


「シャ〜ル ウィー ダーーーンス〜 ♪」

 
  酔っ払いが説得に現れたッ!!  
 
 
 >逃げる
 >戦う
 >見なかったことにする 







    

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