第1話6
「その船の名は、ダカート号ッ!!」


「え……エドガー、私に何か用か?」

「いいから、酒を飲め」
 ↑命令口調。
「いや、今日は飲む気分じゃないし……」
「この酒はな、一級品だぞ〜。うまいぞ〜」
 持ってきた酒瓶をエドガーは目の前にかかげる。さすがにタルごとは
ベルから許可がおりなかったらしい。
 チラリとそれを見てカーティスはため息をついた。
「それってさ、この前、商船を襲って強奪した酒じゃ……」
「ん〜〜〜、海の男が細かいことを気にするなッ!! 飲め飲め!!」
 ドンドンッと、エドガーに陽気に背中を叩かれ、カーティスは渋々グラスを受け取る。


と、そこに。


「オレらも仲間に入れてもらっていいかな」



               「酒盛りは大勢でやるほうが楽しいんだナ」



 エドガーとカーティスのもとに現れたのは、グーリーにダイク、それからランバートに
ガストンだった。
「みんな……」
 全員、カーティスを思ってのこと。
 6人は、甲板に円になるように座り込んだ。
 エドガーが、ガバガバと酒を飲むなか、カーティスは、グラスの中の酒を見つめながら
正直に言った。
「今まで海賊やってきたのに、いきなり『ハイ、やめます』って、私はそう簡単に心の
 切り替えができないんだ。今までラチ越えて楽しく生きてきたのに、決まりを守って
 生きていくのかと思うと……」
「それは、ここにいるみんな同じでしょう」
 冷静にランバートが答える。
「みんな不安ですよ。……たぶん船長も。 でも、私はあの命の恩人であるエレナさんに
 賭けてみたいんですよ。あの人はそれ相応の御身分の方のようですし、きっと私たちを
 良い方向へと導いてくださるでしょう」
「ベルなんか、彼女を『船の女神』だなんて言ってる。オレも、そう思いたい」
「儲けが少なくなるのは間違いないけど、金銭面のことは任しておくんだナ」

 みんなの話を一通り聞いて、ガストンは、フーッと、煙草のけむりを吐いた。


「まぁ、この船が海賊船だろうが、なんだろうが、ワシはこの船を降りるつもりは
 さらさら無い。この『ダカート号』の機関室が、ワシの居場所だからな」


 そうガストンがキッパリと言う。
「なんにせよ、クララと精霊石はワシが守る」
 ちなみに、この「クララ」というのは、ダカート号のメインエンジンの愛称である。
 ダカート号の年長者の言葉は意外に重かったらしく、カーティスの心を動かした。
「居場所……か」
 そう呟く。
 グーリーが、ギュッとグラスを握りしめ、決意したように顔をあげた。
「そうだな。『ダカート号の甲板長』はオレだ。それは誰にも譲れない」
「だ、ナ」
 ダイクも体を揺らしてうなづく。
「この海に、航海士はたくさんいる。でも、この『ダカート号の航海士』は、出来れば
 あなたであって欲しいです。ここにいるみんな、そう思ってますよ」
 ランバートの言葉に、みんながうなづく。

 と、そこへ、酔っぱらいが割って入ってきた!! 

「まーーー、難しい話はこれくらいにして、乾杯しようではないか」

 空気の読めないエドガーに、カーティスは呆れを通り越して、思わず笑った。
「エドガー、何に対して『乾杯』するんだ?」
 カーティスがグラスを頭上に掲げる。
 グーリーも、ダイクも、ランバートも、ガストンも、みんなグラスを手に取り掲げた。
「何に対してって、そうだなぁ……」
 エドガーが、改まったように咳ばらいをした。


「それでは、うぉっほん。
  この新しく生まれ変わるダカート号に……いざ乾杯ッ!!




  「「「「「乾杯〜ッ!!」」」」」



 グラスの重なる音が、夜の甲板に響いた。





    

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