第2話3
「ともに歩く、だからこそッ!!」





    トントンッ

  

 ランバートは、エレナの部屋の扉をノックした。(10回目)
 中にいるはずなのだが、返事がない。

「エレナさ〜ん。返事があるまで、ノックし続けますから〜」


「嫌がらせ?」
 と、エレナの部屋の前で舵輪を握るエドガーがポツリと呟く。


 トントンッ

 再度、ノックをすると、ややあってからエレナの「どうぞ」という小さい声が聞こえたので
ランバートは扉を開けた。
「失礼します」
 つい先日まで、物が乱雑に置かれたドノバンの部屋だったのだが、今は何もない
殺風景な部屋になっていた。フライヤーヨットから運び込まれたエレナの荷物が
隅のほうに置かれている。
 エレナは背を向け、海を眺めていた。
「私に何か用?」
 ランバートはもう少しエレナに近づいた。
「えぇ、傷の具合はどんなものかと」
「手の傷ならおかげで、よくなったわ」

「いえいえ。
 カーティスが、あなたの乙女心を傷つけたって言うんで診察にやってきました」

 エレナが振り返り、プッと吹き出した。
「やだ、なにそれ?」
「思っていたより元気そうでなによりです」
 ランバートがほほ笑む。
「私が悪いのよ。あとで彼に謝っておくわ」
「あぁ、そのカーティスがあなたにこの地図をお返しするようにと。『複製を作らせて
 もらった』とのことです」
「そう、ありがとう」
 エレナはランバートから地図を受け取った。
 海に出る理由となった大事な地図を握り締めて、エレナは呟くように言った。

「私は……みんなに隠していることがあるの。その、隠しているというか、言おうと
 思いつつ言いそびれてしまったというか……」

「承知してます」
「やっぱり……言うべきよね?」
 エレナは視線を再び窓の外へ移した。
 ランバートもその視線の先を追う。

      そこに広がるのは大海原──


     

 ランバートが穏やかな口調で言った。
「あなたと航海を始めてまだほんの少しだというのに、クルー全員、あなたを
 慕っています」
「私が命の恩人だからでしょう?」
「それもありますが、あなたには人を惹きつけるカリスマがおありです」
 エレナは照れたように頬を赤くした。
 ランバートは話を続ける。
「だからこそ、言うべきだと思います。長い船旅になることでしょう。行く先々で
 危険な目に会うことだってあります。あなたの御身分や、そして、あなたに
 流れる血について、私たちクルーが何も知らずに危機に直面したりしないように……」
 エレナはうなづいた。
「そうね、ありがとう。やっぱり話すことにするわ」
「みんなの集まる夕食時が良いでしょう。ま、投票のこともありますし……」
「あ、それそれ。一体何の話なの!?」
「夕方まで秘密ですよ」
「もう! みんな私に隠し事をしてるのね!」
 エレナがランバートに詰め寄ろうとしたとき、外からビリーの大声が聞こえた。



「港が見えたぞーーーーー」


 
 エレナは、それ以上話すのをやめ、うれしそうに早足で甲板に出て行った。





    


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