第2話5
「ともに歩く、だからこそッ!!」





「みんな、驚かないで聞いてちょうだい」

 静まり返る食堂。

 いつも食事中は雑談で楽しく盛り上がる場所だが、今は神聖な場所になったかのように
静まり、全員が椅子に腰掛け、じっとエレナの言葉に耳を傾けていた。


「みんなに黙っていたんだけど、私の名前はエレナ・パカプカ。
 実は、ポポロクロイスっていう王国の姫なのよ」


 そう一言、エレナは言った。


 さらに、し〜んと、静まり返る食堂。


「あぁ。ポポロクロイスっていったらあの有名な英雄ピエトロがいるっていう……」
 そう言いながら、ドノバンは息を吸った。










 船がひっくり返るような大声を出したクルーたちに、エレナは複雑な気持ちで笑った。

「予想通りの反応、どうもありがとう。そう、私はそのピエトロの妹なのよ」
「あ、あああの、英雄ピエトロの妹さん!!!」
「どーりで、強いわけだ」
「気品もあるし」
「でも、なんでこんなところにいるんですか?」
「……」
 そう聞かれ、エレナは押し黙った。
 彼女の心中を気遣って、ベルが立ち上がる。
「言いたくないなら、言わなくてもいいですよ」
 エレナは首を振った。
「お城にいづらくなったのよ。 私……もう、にいさまの重荷にはなりたくない。
 自分の気持ちに整理をつけないといけないし、だから私は、誰も追って来れない
 海に出ようと決めたの」
 ポツリとエレナがつぶやく。
 わかるようで、わからないようなエレナの言葉にドノバンがポンッとひざを叩いた。
 

「おっ、失恋ですねッ!
ぽろ aドカッ!

 ズバリそう言ったドノバンに、エレナは反射的に手近にあったものを投げた。
 ものの見事に顔面に命中し、ドノバンが椅子から倒れる。
「せ、船長ーーーーー!?」
 ビリーとトードがドノバンを立ちあがらせ、グーリーがエレナが投げたものを拾い上げた。
 ずっしりと重い、ごっつい革製の財布だった。
 エレナが持つには、ちょっと似合わない財布である。
「ダイク、その財布をあなたに預けるわ。好きなだけ使ってちょうだい」
 グーリーがダイクにその財布を渡し、ダイクが財布の中身を見て目を丸くした。
「あ……、いや、ちょっとこれは、なんだナ」
「それ、私の財布じゃないもの。私のはこっち」
 エレナは懐からピンクの財布を取り出し、クルーに見せるように振った。

ヒーローといえど、財布だけは忘れるなという、ある人の言葉とともに、
 私は自分のお小遣いだけじゃ心もとなくて、最後に兄の財布を餞別にもらって、
 この大海原へと旅立ったわけ。  にいさまへの思いを断ち切るために、ね」


 全員が、思った。

((((この姫はただものじゃねぇッ!!))))





             
「私は、海に出て本当によかったと思っている。
 たとえ1人、誰にも知られず命を落としたとしても、これは自分で選び進んだ道。
 絶対に後悔はしないわッ!!」

「それでこそ、俺ら全員、エレナさんに命を賭けられるってもんよ!」
 ドノバンの言葉に、クルー全員がうなづく。
「私……本当にこの船に乗ってもいいのかしら」
「いまさら何言ってるんですか。あなたが何者だろうと、俺らは変わりませんよ」
 エレナは胸がつまった。
「みんな、ありがとう……」
「ま、がさつなヤツばっかですから、気品を失わないように気をつけてくだせぇよ」
「ふふ。ちょっとガサツなお姫様ぐらいがちょうどいいのよ。それに、この海の上では
 身分も何も関係ないわ。私は1人の船乗りとして、みんなと一緒に歩んでいきたい」
 エレナは改めてダカート号との出会いに感謝をした。
 自分の素性を知れば、みんなの態度が変わるかもしれないと思っていたのだが、
そんなことはまったく杞憂だったらしい。

 エレナは手を叩いた。
「はい、私の話はこれで終わりよ。
 それで、ドノバン、そちらの大事な話ってのは、なあに?」



「おい、ビリー」
「ヘイ、船長。こんな結果でましたけど。万丈一致で」
 ビリーがドノバンに紙を渡す。
 その紙を見て、ドノバンは満足そうに、うなづいた。


「エレナさん、今からあなたを『ボス』と呼ばせていただきやす!!!」







    

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送