第5話4
ダカート号だよ、全員集合ーーーッ!」


トントンッ

「ボス、入りますぜー」
「どうぞ」
 扉を開けるものの、突っ立って中に入ろうとしないモンバの背中をドノバンは強く押した。
驚いてモンバは半ば倒れこむようにして、エレナの部屋に入った。
「ボス、クロコネシアのガキを連れてきました。名前はモンバです」
「ありがとう、ドノバン。 ……モンバ、あなた、とんだ災難だったわね」
 エレナは立ち上がり、モンバに笑いかけた。
「……」
 モンバは、口をあんぐり開けて、少し間抜けな顔でエレナを見つめた。
「あ、あの、あなたが『ボス』ッスか!?」
「そうよ。私はエレナ。このダカート号の『ボス』よ」

 まさか、こんなお姉さんがボスだとは……!!
 
 うっわ、騙されたーーーーーーーー!!
 気絶して損した。

「それで、モンバ。あなたはこんな海の真ん中で一人で何をしていたの? 
 迷子? それとも家出?」
 エレナに聞かれ、モンバは胸を張って答えた。
「オイラ、立派な船乗りになるために修行の旅に出たッスよ!」
「まぁ! あなた、いくつなの? まだ子供じゃない!」
 驚くエレナに、間髪入れずにドノバンが答えた。
「ボスはご存知ないと思いますが、クロコネシア人には、優秀な船乗りが多いんです。
 早いうちから船で修業するのが習わしで、1人で乗せてもらえる船を探すんです」
「そう! オイラ、船を探してるッス! 良かったらこの船に……」
「ダメよ」


 ピシャリと、エレナは言った。


       「……」

「あのぅ、ボス。そう簡単に断るのはちょっと……」
「ドノバン、航路変更するわ。この子をクロコネシアに送り届けるわよ」
 モンバは思い切ってエレナに言った。
「オイラはもう子供じゃないッス! それに、この船にはオイラと同い年ぐらいの女の子が
 乗ってるじゃないッスか!」
「アイナのことね。あの子は、身内が一緒に乗船してるからいいのよ」
「オイラ、クロコネシアには絶対に帰らないッスよ! 修行させてもらえる船を探すッス!」
 エレナは諭すようにモンバに言った。
「もう少し大きくなってからでもいいじゃない。島で勉強出来ることもたくさんあるでしょう?
 それに、モンバ……きっとご両親が心配なさってるわ」
「オイラ、とーちゃんもかーちゃんもいないッスよ」
「あ……ごめんなさい」
 慌ててエレナが謝る。
 モンバはそのことは気にしてないようで、ゆっくりと顔をあげた。
「いいッス。この船が向かっている港で降ろしてくれれば、1人で帰れるッスよ」
「そうね。クロコネシアへの定期便が出ている港に寄りましょう。カーティスに言って……」

 バンッ!

 エレナの話の途中で、いきなりノックもなしで部屋の扉が開かれ、話は中断した。
「ボスーー! あ、ちょうどいい、船長も! これ、見てくださいよ」
 なんとカーティスだった。
 ずかずかと大股でエレナの机まで歩き、1枚の紙を叩きつける。
 エレナが紙を受け取り、ドノバンもその紙を覗き込んだ。
「……」
「……」
 それは10日分の見張り当番のシフト表だった。連日連夜にカーティスの名前が
いっぱい書いてある。
「あら、最下位だったのね。おめでとう、カーティス」
 どうでもいいように、シフト表から顔を上げるエレナ。 ドノバンが鼻で笑う。
「仕方ねーだろ。0匹だったお前が悪いんだ」
「釣りました、一匹!」

「いいだろう。100歩譲ってモンバを1匹と数えよう。それでも、最下位はお前だ」
「Σ( ̄0 ̄ |||| !?」
「覚悟を決めろ、カーティス」
「自分の仕事もあるのに、見張り当番もして、私の寝る時間はないじゃないですか!」
 エレナは、最高の笑顔をカーティスに向けた。
「あなたなら寝なくてもきっと大丈夫よ」
「ボス。なんの根拠でそんなことを……」
 がっくりと肩を落として、胃をさする。
「カーティス、次に寄る港で、クロコネシアへの船が出ているかダイクに言って調べて
 もらってくれ」
「……」
 カーティスは、ちらりとモンバを見た。
 しょんぼりとして、じっと床を見つめている。

「……アイアイサー。 調べておきます」
 一呼吸おいてから、カーティスはうなづいた。

 




    

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