第8話4
「歓楽都市ガバスッ! うちのボスとカジノの裏ボス」




「……おじさん、どうしたの?」
「大丈夫ですか、立てますか?」



 いきなりイスから落っこちた隣の客に、カーティスとランバートは声をかけた。
「あ、あぁ」
 パウロはよろけつつ、スロットにつかまりながら立ち上がると、再びイスに座りなおした。
 何事もなかったかのように、2人はまた話し始めた。
「なんでも、ボスが生まれる前に、ボスのご両親とお兄さんが家族旅行でこのガバスに
 遊びに来たんだと。 そのときに、お父さんがスロットをガツンと叩いたらコインが山のように
 出てきちゃった☆っていう事件を起こしたことがあるらしくて、なんかそれ以来、ポポロクロ
 イスとガバスはいろいろお付き合いが続いているそうだ」
「へぇ、それじゃあ、ボスのお父上に感謝ですね」
「はははッ、まったくだよな」

 パウロは、膝の上で、こぶしを握りしめていた。
(え、何? エレナがここにいるのは、ワシのせい?)

 カーティスとランバートは、それから少しくだらない会話を続けた後、黙ってスロットに
集中し始めた。

 2人は、これ以上エレナの話をしようとはしなかった。パウロは、なんとか娘の情報を
知りたくて知りたくて、強行突破に出た。
 パウロは、思い切って、2人に話しかけた。それはもう、さりげなーーーく。
「き、君たちの話していた『ボス』というのは、さっきのお譲さんのことかね?」
「え?」
 カーティスとランバートが手を止めて、ギロリとパウロを見る。パウロは一瞬たじろいたが、
ひるまなかった。
「おじさんもしかして……
 ボスに援助交際とか申し込もうとしてるーーーー!?」

 ガーーーーン!!
 
 無理無理、と笑いながら手を振るカーティスに、クスクスと笑うランバート。
 パウロは顔を真っ赤にした。
「こっちは真剣に聞いているんだ!!」
 ガタッ
 パウロは思わず立ち上がって叫んでいた。騒がしい場所なのに、この3人の周りだけ
急に音がなくなったかのように、一瞬、しんっとなった。
 ヘラヘラしていたカーティスとランバートから笑顔が消える。
 パウロの態度に答えるように、ランバートが真っ直ぐにパウロの目を見た。
「私たちは、彼女とともに伝説の剣なるものを探して航海をしています」
「そうそう、『バファンの剣』という代物らしい。おじさん、何か知らない?」
 2人はそう言った。
 「バファンの剣」がどういうものかわからない分、あちこちに情報を振りまくのは危険だ。
ダカート号のクルーは、港に立ち寄るたびに剣の情報を求め、書籍などを調べたりしたが、
直接人に聞くことは、十分信頼を得ることができる人物以外には決してしていなかった。
 それを、2人は、さらりと口に出した。パウロの剣幕に負けたのかもしれない。
「いや……知らないな。すまなかった、失礼する。楽しみたまえ」
 パウロは、そう言い、自分のコインの袋を握りしめ、静かに別のフロアに消えていった。




    「ハーイ、おっまたせーーー

 それと入れ替わりになるように現れたのは、銀皿にビールジョッキを2つのせたバニーガール
だった。
「遅くなってごめんなさい。はい、どうぞ」
 バニーガールは、笑顔を振りまくと、ビールを手渡した。
 カーティスがポケットから財布を取り出し、銀皿の上にお金を置く。バニーガールは、そのお金を
見て、怪訝な顔をした。ビール代金以上のお金が乗っていたからだ。
「あら、こんなにもらっちゃっていいのかしら。私へのチップ?」
 カーティスは、隣の席を指差した。
「今さっきまでここに座ってたおじさんの情報があったら欲しい」
 ……だって、どうみても怪しいし。
「あぁ、あの人……ね。知ってるわ」
 バニーガールは、パウロが消えていった方角を見てうなづいた。
「そうね、ここの『裏ボス』ってとこかしら」
「「裏ボス……???」」
 カーティスとランバートは顔を見合わせた。何かひっかかる単語である。
 バニーガールは、にやりと笑って、銀皿を2人の前に突き出す。
「もう少しお代を頂かないと、この先の情報は教えられないわねーーー♪」
「う……足元を見やがって。おい、ランバート」
「それって、たいした情報なんでしょうね」
 仕方ないという感じでランバートは自分の財布を取り出した。
「まいどありー」
 商売上手なバニーガールは、2人を手まねきして、周りに聞かれないように小声で
話し始めた。
 
「聞いた話によると、あの人はね、10年以上昔にこのガバスのスロットを思いっきり叩いて
 コインを大放出させちゃった事件を起こしたことのある人なの。そのあと、剣の腕を買われて、
 たまに現れてはこのガバスを見回ってるっていうわ。なんでも、どこかの国の王様だって噂よ」

「「……」」
 2人は、息をのんだ。
 なんだか知ってる話だったからだ!!
「ってことは、あの人はボスの……」


 ガシャーーーーーーーーンッ!!

 2人の思考は、その物凄い音によって遮られた。
 カジノの中央、ルーレット台の周りにたくさんの人が集まっている。何かもめているらしい。
「あぁ……嫌な予感がする。胃が痛い」
「行ってみましょう」
 2人はバニーガールにお礼を言うと、ビールを一気に飲み干し、その現場へ急行した。

 




    

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