第８話５
「歓楽都市ガバスッ！　うちのボスとカジノの裏ボス」

　カジノ中央のルーレット台周辺にはたくさんの人が集まっていた。
　カーティスとランバートが騒ぎの元に駆けつける。人ごみをかき分け、騒動の中心に
たどりつき、（あぁ、やっぱり……）と２人は肩を落とした。
「あぁ、お前らも来たか」
　そう呼ばれて隣を見ると、すでにグーリーとベルの姿があった。合流した４人は
騒動の中心を見つめた。

　目の前のルーレット台では、ゲームの進行役であるディーラーと我らがボスのエレナが
にらみ合っていた。

　　　　

　あ〜あ〜、不安だったんだよ！　だからボスを１人にしたくなかったんだ！

　みんなの顔にそう書いてある。
　遅れてドノバンもやってきて、グーリーの背中を叩いた。ドノバンは「あっちゃー」と言わん
ばかりに額に手を当てて現場を見つめた。
「ボス……なにをやってんですか」
　そのエレナは、腰に手を当てて、ディーラーの男と対峙していた。
　彼女の後ろでは、ビリーとトードが抱き合って震えている。
「どう見ても不正が行われているじゃない！」
　ビシッとエレナが声を張り上げた。
　やばい、と慌ててドノバンが前へ出た。
「あの、ボスはカジノは初めてですし、俺達は裏の稼業をやってたんでよくわかってますが、
　こういう業界には暗黙の了解ってのがありまして……」
　そんな説明を正義のエレナは聞きたくないらしい。
「ビリーとトードが損をしているのに、黙って見てろって言うの！？　いいから、この台とその
　ルーレットの球を調べさせてちょうだい」
　エレナがバンッと台を叩く。
「ボス。オレもトードも今の試合は普通に負けってことでいいので……」
「そうそう……は、はっくしょん！」
　ビリーがオドオドとエレナに声をかけ、トードが豪快にくしゃみをする。
「あなたたちは　だまっててちょうだい！」
「「は、はいッ！」」
　エレナになぜか一喝され、ビリーとトードは後ろに下がった。
　ドノバンが、グーリーたちに助けを求める視線を送るが、誰も動こうとはしない。　この状態を
もう少し見守ったほうがいいと判断したのか、他人のフリをしていたほうが賢明と判断したのか。
　ディーラーは、落ち着いた感じで、ふっと笑い、肩をすくめた。
「お嬢さん、不正なんてとんでもない！　あなたこそ、カジノで損でもしたんでしょう？　そういう
　お客様は多いんですよ。　変な言いがかりをつけてもらっちゃ困りますね」
「なんですって……！」
　エレナが低い声を出して、ディーラーを睨んだ。今にも襲いかかろうとする雰囲気だ。
「ボ、ボス！　落ち着いてください」
　ザッ！
　気がつくと、エレナたちダカート号クルーは大勢の警備員に囲まれていた。
「営業妨害です。出て行ってもらいましょうか」
「出て行かない、と言ったらどうするの？」
　エレナが強気に笑う。　もうだめだ、絶対だめだ、ドノバンが泣きそうな顔でオロオロしている。
　ディーラーがスッと手を挙げた。
　警備員たちが、エレナたちを捕まえようと襲いかかった。


ドカッ　　バキッ





　　　　　　　　　　　　　　バタバタッ……



　　

　その場に立っているのは、警備員たちではなく、エレナたちだった。

　しーん……
　声にならないようで、周りの客たちが一斉に引いた。

「ダカート一家をなめんじゃないぞ！」
「ボス、お怪我はありませんか？」
「もちろん。みんなは大丈夫？」
「全く問題ありません」
　警備員たちが床に倒れて目を回している。警備員だって、カジノを守らなくてはいけない、
もちろん強いはずだが、エレナがボスのダカート一家のほうが断然強かった。
　まぁ、毎日甲板でエレナの剣の稽古に（無理やり）つき合っていれば、強くもなるはずだ。
　予想外のことにディーラーは、唇をかんだ。
　

「さぁ。不正を認めなさ……うぐっ！」
　　　　　「わ゛ーーーーーーーッ！！！！」

　もう我慢の限界、ドノバンがエレナの口をふさいだ。
　警備員を殴ったのだ、もう取り返しのつかない所にきてしまっている。
　ドノバンは、クルーを振り返った。
「お前ら、ずらかるぞーーーーーーーー！！」
「アイアイサーーーーー！！」
　ドノバンは問答無用でエレナの手を引っ張り、全員で出口に向かって逃げ出した。
「逃がすな、追うんだ！！！」
　ディーラーの大声が聞こえるが、ドノバンたちは振り返ることなく、走り続けた。





　はてさて、一方その頃──。

「ガバス利き酒大会、優勝は全問正解のエドガーさんでーーーーす！！」

　　　
「え、もう終わりですか！？　ま〜だまだ いけますよーーー」
「キャー！　エドガー、最高ッ！　愛してるんだナーーーーーー！！！」
　なんと！
　誰が予想しただろう、あのエドガーが見事に優勝を果たしていた。